ケース別遺産分割Q&A1

 

Q、被相続人Aは、妻Bと結婚したものの、2人の間には子どもが生まれませんでした。Aが死亡した時点で、その両親は既に他界しており、Aの兄Cと弟DのうちCも他界していました。Cには、その妻Eとの間に生まれた、長女F及び長男Gがいます。Aの遺産が現金と預金に限られていたため、共同相続人は、法定相続に従ってこれらを分割することとしました。

 

A、遺産分割をする必要がありますが、まず、はじめに遺産分割する当事者は誰かを確定します。共同相続人全員で遺産分割協議をする必要があるからです。

まず、Bは配偶者なので、相続人です。被相続人の血族は、規定の順序に従って相続人になります。まず子、子がいないとき直系尊属、子及び直系尊属がいないときは、兄弟姉妹です。

すると、本事案では、血族相続人のはずのAの子がいなく、しかもAの両親もいないので、Aの弟Dも相続人となります。

Aの兄Cは既に死亡していますが、その妻Eや子FGは相続人となるでしょうか。FGは代襲相続人となり、共同相続人となることに注意する必要があります。

Eは代襲相続人となりません。

つぎに法定相続分を確認する必要があります。

本件では、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人である場合なので、配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1となります。

するとAの兄弟は2名いるので、Dは、4分の1×2分の1で、8分の1を取得します。FGはさらに8分の1×2分の1で、16分の1づつ取得します。

 

Q、被相続人Aには、実子BCDがいましたが、長女Bの介護を受けて生活していました。Aは、預貯金をすべてBに相続させる自筆証書遺言を作成し、その保管と検認手続をBに依頼しました。Aの死後この遺言を見せられたDは、遺言書どおりに処理するとウソを言って、Bからこれを受取しましたが、再三の返還要求にもかかわらず、D3年に渡り返還しませんでした。

 

AD3年に渡り遺言書の返還に応じていないので、「隠匿」にあたり欠格事由になるのかが問題となります。

相続欠格とは、一定の事由(欠格事由)が存在する場合に、被相続人の意思に関係なく、当然に相続人となる資格が失われる制度です。遺言書を偽造したり破棄したり、隠匿した者も欠格事由となります。

本件では、「隠匿」にあたる可能性が高いでしょう。すると、Dは相続人から除外されるので、Dを加えず遺産分割協議をすることができます。

相続欠格者がいる場合、相続登記をするには、相続欠格証明書(所定の欠格事由が存する旨を証する当該欠格者の作成した書面)か、確定判決の謄本が必要です。したがって、相続欠格者がいる場合で、作成が可能であれば相続欠格証明書を作成することがよいでしょう。

 

Q、被相続人Aは、銀行から住宅ローンの借り入れをし、Aが病気で急逝し、多額の住宅ローンが残りました。Aと妻Bとの間には、子C(成人)がいます。

Cが債務を相続しないためにはどうしたらいいでしょうか。

 

A、相続がおきると、債務も承継します。ですから、Cは相続放棄をする必要があります。そうすると初めから相続人とならなかったことになり、プラスの財産のみならず、マイナスの財産つまり借金も相続しないことになります。

では、どうしたら相続放棄できるでしょうか。

自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。申述先は、被相続人の住所地又は、相続開始地の家庭裁判所です。

土地など相続財産の所有権移転登記をする時には、相続放棄申述受理証明書を提出する必要があります。

 

Q、被相続人Aは、妻B及び長女Cを残して死亡しました。A名義の土地建物があります。登記名義をB名義にするため、Cは「相続分なきことの証明書」を作成することにしました。「相続分なきことの証明書」とはなんでしょうか。

 

A、相続分なきことの証明書は、相続分以上の遺贈または贈与を受けたので相続分はゼロであり取得分はない趣旨を記載した書面です。本来、特別受益者がいる場合の登記手続における利用を予定したものですが、実際は、労力・費用及び時間のかかる相続放棄、遺産分割手続を回避し、遺産のほとんど又は全部を共同相続人1名に取得させる便法として利用されます。

では、新たな遺産が見つかった場合、CBに対して、遺産分割協議を求めることができるでしょうか。相続分なき証明書は、過去の事実を証明するもので、処分文書ではありません。したがって、新たな遺産が見つかった場合、遺産分割協議を求めることができます。しかし、証明書の作成交付に至るまでの経緯、理解度、代償金の授受などから、他の法律行為(遺産分割・共有持分の放棄・相続分の譲渡など)が成立したと推認する重要な間接事実となりえます。

この場合新たな遺産分割協議はできないでしょう。

 

 

Q、被相続人甲は、実子BCと内縁の妻Dを残し死亡しました。BCはいずれもDに養育され、BCは独立して生計を立て自宅を構えるようになったので、甲の遺産の土地建物はDに取得させようと考えました。BCはそれぞれ相続分の2分の1Dに譲渡したうえで、遺産分割協議において、BCが預貯金を、Dが土地建物を取得することにしました。相続分の譲渡とはなんでしょうか。

 

A、相続分とは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する相続人の割合的持分を言います。

共同相続人が相続分を譲渡したときは、譲渡人(相続人)にかわり、譲受人(第三者)が遺産分割協議の当事者となります。

内縁の妻Dは共同相続人ではないのですが、相続分の譲渡を受け、遺産分割協議に加わることになりました。

では、甲に借金がある場合はどうでしょうか。

相続分の譲渡は、相続人たる地位の譲渡ですから、譲渡の当事者間で債務も移転することになります。ただし、債権者の同意が必要でしょう。債権者の同意がなければ、対外的には譲渡人が債務を負います。

譲渡人と譲受人との間では、譲受人が債務の履行引き受けなどして債務を履行していくことになります。

 

 

Q、被相続人甲は、自宅の土地建物と外貨預金を残して死亡しました。妻Bと未成年の子CDが共同相続人になりました。CDは他女性Eとの間に生まれた非嫡出子であり、Eが親権者になっています。

Bは誰と遺産分割協議をすればいいでしょうか。

 

A、子CDは未成年者です。法律行為をするには法定代理人の同意を得る必要があります。親権者Eが、未成年者CDに代わって遺産分割協議をします。

では、ECD双方を代理することはできますか。利益相反行為にならないかが問題となります。本件では子CDは利益相反になります。

本ケースでは、遺産分割協議をするにあたり、親権者Eは、C又はDのいずれか一方の代理はできますが、他方の未成年者については、特別代理人の選任が必要です。

未成年者の親権者は、未成年者の住所地の家庭裁判所に特別代理人の選任の審判を求める申立をすることができます。

Bは、親権者Eと特別代理人と遺産分割協議をすることになります。

 

 

Q、被相続人甲は、妻B、実子CDを残し平成2013日に死亡しました。

Dは、平成101月ごろ、家出をし、それ以来生死不明です。Dをはずして遺産分割協議ができますか。

 

A、遺産分割協議には、共同相続人全員の参加が必要です。D共同相続人ですから、Dをはずして遺産分割協議はできません。そこで、BCが遺産分割協議をするには、失踪宣告制度を利用します。失踪宣告制度は、不在者の生死不明の状態が続いているときに、その者の死亡を擬制して、不在者の取り巻く法律関係を確定させる制度です。普通失踪では、失踪者の生存を証明できるときから最後のときから、7年間が経過したときに、死亡したとみなされます。

本ケースでは、Dは平成171月に死亡したとされます。

これにより、Dをはずして、BCで遺産分割協議ができます。

なお、失踪宣告を受けるには、家庭裁判所に家事審判の申立をする必要があります。

 

 

Q、被相続人甲は、妻B、子CDを残し死亡しました。子Dは事業に失敗し数年前から行方不明でありますが、時々電話をかけてきます。遺産分割の話を切り出しても、自分には関係ないと言い、居場所すら明かしません。BCはどうすればいいでしょうか。

 

A、共同相続人の中で、生存は明らかですが行方不明となっている人(不在者)がいる場合でも、不在者を遺産分割協議から除くことはできません。そこで、遺産分割協議を行うためには、不在者の財産の管理人を選任する必要があります。共同相続人BCは、利害関係人として、財産管理人の選任審判を家庭裁判所に求めることができます。そして、BCと財産管理人の間で遺産分割協議をします。

管理人は、保存行為及び性質を変えない範囲の利用・改良行為に限られ、その権限を越える場合は、家庭裁判所の許可が必要です。遺産分割協議を成立させるには、管理人は家庭裁判所の許可を得る必要があります。BCは管理人が裁判所の許可を得ているか確認する必要があります。

 

 

Q、被相続人甲は、妻B、子CDを残し死亡しました。妻は数年前に認知症にかかり、現在はCDが見舞いに来てもわが子とわからなくなっています。Bはどのように遺産分割協議をしますか。

 

A、遺産分割は、法律行為ですので、意思能力が必要です。Bは、物事を見分けたり判断する能力が著しく低下していますので、意思能力がないと思われます。

そこで、Bが遺産分割協議をするには、成年後見制度を利用し、後見人を選任してBに代わって遺産分割協議をします。

成年後見人は、本人、配偶者、4親等以内の親族等の申立で、家庭裁判所の審判により選任されます。

仮に、Cが後見人に選任された場合、CBも共同相続人であり、遺産分割協議は利益相反となり許されません。そこで、家庭裁判所に対し特別代理人の選任を請求します。ただし、後見監督人が選任されている場合は、同人が成年後見人を代理します。

 

 

Q、被相続人甲は、妻B、子CDを残し死亡しました。Bは東京、Cは北海道、Dは沖縄に住んでいて、一堂に会して遺産分割協議ができません。どうしたらいいでしょうか。

 

A遺産分割協議は、必ずしも協議の結果を書面にしなければならないものではありません。しかし、協議の内容を明確にし、後日の紛争を避け、不動産の登記をする必要から、遺産分割協議書を作成する実際上の必要があります。

遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。この合意を成立させるには、必ずしも全員が一堂に会して行う必要はありません。

相続人の1人が、相続人全員の意向を勘案して遺産分割協議案を作成し、これを相続人全員に提示し、相続人全員がこれに明確な受諾の意思表示をすることにより、遺産分割協議を成立させることもできます。

また、1通の遺産分割協議書を持ち回りで作成することも困難でしょう。

このような時、「遺産分割協議証明書」を作成して、遺産分割が相続人全員の合意により成立したことの証拠資料とすることがあります。これも、登記原因証明情報として認められます。

たとえば、「被相続人甲の遺産につき、上記相続人BCDが平成2015日遺産分割協議をした結果、被相続人の下記遺産はすべてBが取得したことを証明します」という文章を作成します。

 

 

Q、被相続人甲は、妻B、長男C及び次男Dを残し死亡しました。別棟の建物は、Aの名義ですが、Aの実業を手伝う長男Cが結婚する際、生計の資本として、Aが資金を拠出し立ててやり、権利証もCが持ち、その家にはC家族が住んでいます。遺産分割するときこの別棟の建物はどうなりますか。

 

A、甲からCへ建物の贈与契約が成立していれば、遺産分割協議の対象となる遺産でなくなります。贈与契約は、口頭の意思表示で成立します。贈与契約書が作成されていればよいのですが、なくとも有効です。

ただし、書面によらない贈与は撤回することができますが、履行の終わった部分は撤回できません。Cが建物の引き渡しをうけ居住し始めたとき、履行は既に終わり、贈与契約の撤回はできません。

ただし、建物の生前贈与は特別受益に該当しますので、建物の価格を持ち戻したうえで、Cの相続分から同価値を控除する必要があります。

 

 

Q、被相続人甲は長男B次男Cを残して死亡しました。遺産分割協議では、B名義ではあるが、通帳印鑑はAが持ち、その出入金もAがしていた預金がAの相続財産かどうか争いになりました。どう解決したらいいでしょうか。

 

A、普通預金に関して、2つの最高裁判例が出ています。

これによれば、預金の金員の帰属先として出損者と名義人どちらが妥当か、誰が預金を管理保管していたかが重視されているので、Aが自ら出損により預金口座を開設し、開設後も自ら預金の管理を行っている本件では、Aが預金者と判断でき、預金は相続財産になるでしょう。

よって、当該預金は遺産分割の対象となるでしょう。

 

 

Q被相続人甲は生前、長女Bに預金を管理させていましたが、Aの生前Bの管理に関して使途不明金が合計300万円あることが判明しました。どう解決したらいいでしょうか。

 

A、預金の管理は、被相続人甲とBの管理委託契約によるものです。

委任者は、使途不明となった預貯金と利息について、同額の委任契約上の返還請求権又は損害賠償請求権を管理者Bに請求できます。

委任契約上の返還請求権又は損害賠償請求権は、相続開始時点で、甲の財産に帰属していたものなので、相続財産となります。返還請求権又は損害賠償請求権は、遺産分割の対象となります。

Bが使途不明金相当額を受取物返還義務等の履行として、現金で返還したうえで、現金を現物分割する方法があります。

他方で、受取物返還請求権等を遺産として自ら取得し、混同により、消滅させ、現金として返還することなく遺産分割として、簡便に処理することもあり得ます。

 

Q上記の事例で、甲の死後長女Bがその管理を二女Cに引き継いだ場合で、

二女Cが管理上200万円の使途不明金を出してしまったときは、どう解決しますか。

 

A遺産だった預貯金が使途不明金となった場合で、相続開始後遺産分割前に相続人の1人が遺産を処分してしまった場合、代償財産があるとき代償財産を遺産分割の対象にします。

Cの受取物返還請求権か損害賠償請求権が遺産分割の対象となります。

 

 

Q、遺産の評価についてどうしたらいいでしょうか

 

A、遺産の評価に争いがある場合には、遺産分割の話合いの前提として、個々の遺産の評価額を算定して、その評価額に従って遺産分割を進めるという合意をします。

このような場合の、遺産の評価は、遺産分割の協議者が共通して、納得できる内容であればよく、正式な鑑定がどうしても必要というわけではありません。もちろん鑑定を行えばより正確な評価額が出てよいでしょう。

また、遺産評価の時期を確認します。遺産が分割されるのは遺産分割時ですから、財産の公平な分配という見地からは、相続時の評価でなく、遺産分割時の評価が妥当でしょう。

 

では株式の評価はどのように行いますか。

上場株式については、株式市場の株価という客観的な基準があるのでこれから株式の時価を判断します。遺産分割時に近接する一定の期間を定めて、その間の株式取引所での価格を平均したものを評価額として扱う例があります。

非上場株式は株式の市場価格はありませんから、上場会社のような評価方法は採用できません。そこで、一般的には収益還元法、配当還元法、類似業種非核法、純資産評価法式で評価を行います。