遺産分割Q&A(3)

Q、不動産(アパート)を現物分割(共有)するケース
被相続人甲には、預金1200万円とアパートの遺産がありました。相続人は妻Aと子どもBCです。遺産分割協議の結果、預金は妻が取得し、アパートはBCが取得することになりました。


A、(1)アパートはBCの共有となります。共有とする場合は、その持分割合を決める必要があります。当該不動産以外に遺産がある場合、共有とする財産以外にどのような遺産があるか、それらを誰が取得するかなどの諸事情を考慮したうえで、各相続人の取得する財産の価値が法定相続分に近づくよう配慮して共有財産の持分割合を決めるのが合理的であると思います。
すると本件では、アパートはBCで2分の1ずつ分けるのが合理的です。
(2)共有物であるアパートの管理方法を定めます。
共有物の保存行為は、各共有者が単独でできますが、管理に関する事項は共有者の持分価格の過半数で決めることになります。
共有物がアパートなどの収益物件の場合、その維持管理については、不動産管理会社に委託しているのが通常とおもわれます。その場合には、家賃の振込先・書類の送付先などを決めておく必要があります。たとえば、家賃の振込先について、共有者のうち代表者が一括して支払いを受け、そのほかの共有者に割り振るのか、それとも管理会社に各共有持分に応じて振込をさせるのかを決めます。
収益物件の管理を各共有者でする場合は、誰がどのように賃料の集金を行うのか、集金した金銭をどう分配するのか、物件の清掃等の保守管理をどう行うのか、だれが固定資産税等の経費支払をするのかを取り決めておく必要があります。これらのことは、遺産分割協議書に盛り込むよりも、別途合意書などを作成して取り決めておくのが良いでしょう。
(3)共有物分割請求を制限する条項を設けることができる。
一定期間共有関係を継続させたい場合は、遺産分割協議書又は合意書等により、不分割の合意をすることができます。共有物の不分割の合意は、5年以下の期間であればできます。


Q、貸金債権・現金を相続するケース
被相続人甲は、第三者Zに対して600万円を、相続人である長男Aに対しては500万円を貸したことがあります。この死亡時の貸金債権の残高はそれぞれ350万円・300万円でした。また遺産の中には現金150万円もあり、甲の妻Bが保管しています。遺産分割の結果、Bに対する貸金債権はBが、Xに対する貸金債権はCがそれぞれ取得することになりました。


A、(1)まず、貸金債権が遺産分割の対象となるか確認します。
相続人が数人ある場合において、相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて、権利を承継すると解するのを相当とするという最高裁判例があります。
以上の通り、本ケースにおける被相続人甲のZ及びAに対する貸金債権は、相続人ABに当然分割されるとすると(Aは甲のAに対する150万円の貸金債権を承継しますが、これは混同により消滅します)、BはZに対して175万円の貸金債権を取得し、Aに対して150万円の債権を取得します。
(2)貸金債権は、当然分割されるのが原則ですが、相続人全員が可分債権を遺産分割の対象に含めると合意することもできます。
よって、本件ではAとBとの合意により、甲のA・Zに対する貸金債権はAに対する債権をAが取得し、Zに対する債権をBが取得することが可能となります。
Zに対する債権は指名債権で、相続後の、相続人間における遺産分割による債権移転は、意思表示による持分移転と解する余地がありますので、対抗要件を具備するためにはAはBに対する債権譲渡の通知を債務者であるZに通知する条項を規定することが必要でしょう。
(3)現金が遺産分割の対象となるかを確認します。
相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできないとする最高裁判例があります。
本ケースでは、たとえばAが金銭を保管しているBに半分の75万円を当然に引渡の請求はできず、AB間の協議でどのように配分するかを決めます。


Q、生命保険契約及び交通事故の損害賠償請求権があったケース
被相続人甲は、横断歩道を横断中に信号無視の自動車に轢かれて即死しました。
甲は、受取人を妻Aとした生命保険契約(死亡保険金額2000万円)と、預金1000万円を残していました。共同相続人は妻A長女B長男Cの3人です。交通事故にもとづく加害者Yに対する損害賠償請求権はBとCが2分の1ずつ取得することで合意しました。


A、(1)まず、生命保険金請求権が遺産分割の対象となるか検討します。
判例は、被相続人の死亡により、指定を受けた者が固有財産として保険金請求権を取得し、これが相続財産を構成することはないとしています。
本件では、Aは、遺産分割を経ることはなく、単独で生命保険金2000万円を取得できます。
(2)交通事故による死亡の損害賠償請求権が遺産分割の対象となるかを検討します。
逸失利益(被害者本人が働いて得られるはずの収入)は、被相続人の死亡により、その権利は相続人に承継されます。
また、死者自身の慰謝料請求権も、判例は相続財産性も肯定しています。
逸失利益も慰謝料請求権も、可分債権ですから判例によれば、法定相続分に応じて、AとBとCが取得することになります。
ただし、相続人全員で遺産分割の対象とする旨の合意をしたときは、遺産分割の対象とできます。
また、ABCに発生した固有の損害賠償(これは相続財産でないことに注意)があれば、その損害賠償をすることができます。


Q、被相続人甲が死亡し、子ABCが相続人となりました。相続財産は土地のみで、売買代金3000万円で売却しAが代表して受領しました。BとCがそれぞれ1000万円ずつ支払うようにAに求めました。Aは、他の遺産と共に遺産分割の手続きを踏んで分割すべきであり、BとCに当然に1000万円を要求する権利はないと言いました。どうでしょうか。

A、共同相続全員により、遺産に属する個別財産が処分された場合、処分された財産は、遺産分割の対象たる相続財産から逸出するので、代償財産について、各相続人は相続財産としてではなく、固有の権利として取得するというのが判例です。したがって、BCが1000万円ずつ請求してきた場合は、Aはその引き渡しいに応じる必要があります。
しかし、共同相続人全員が、代償財産(本件では土地売却代金の3000万円)を遺産分割の対象に含める合意があれば、遺産分割の対象になります。


Q、被相続人甲が死亡し、妻Aと子B(25歳)と子C(17歳)が相続しました。共同相続人は遺産分割協議をしようと思っています。何か問題はありますか。

A、共同相続人の中に、未成年者がいる場合には、親権者がこの者の法定代理人として遺産分割手続をおこなうことは利益相反行為になります。本件では、子Cは未成年者なので、母親のAが代理して遺産分割協議をすることは利益相反行為になりできません。
この場合、未成年者の子Cのために特別代理人を選任する必要があります。


Q、被相続人甲が死亡し、3人の子ABCが相続しました。3人の協議によりAが土地(3000万円)、Bが建物(1000万円)、CがZに対する甲の1000万円の貸金債権をそれぞれ取得することになりました。ところが、遺産分割協議が成立したとのちに、Zが倒産し、貸金債権の回収が不可能になりました。Cは何か主張できますか。

A、各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権につき、その分割時における債務者の資料を担保します。
つまり、回収不能となった債権については、他の共同相続人から相続分に応じて債権額を回収できます。
本件の場合、回収不能となった1000万円につき、A:B:C=3:1:1の比率で割り付けます。その結果、CはAに対して600万円、Bに対しては200万円を請求できます。Cの相続分に対応する200万円はその回収不能のリスクをCが自己負担します。


Q、被相続人甲は、Z銀行から事業資金を借り入れ、自己所有の土地上に貸マンションを建ててその賃料収益から借入債務を返済していました。土地及びマンションにはZ銀行が根抵当権を設定しており、相続開始時の借入債務残高は3000万円でした。甲はそのほかに預金2000万円がありました。共同相続人は甲の妻Aと子どもBCでしたが、BCは各2分の1ずつ借入債務を負い。Aは預金2000万円を取得して、借入債務を負わないとする遺産分割協議を成立させました。

A、(1)まず、借入債務が遺産分割の対象となるかを検討します。
被相続人の可分債務(本件借入金・金銭債務)について、判例は相続開始と同時に各相続人が相続分に応じて分割承継し、遺産分割の対象にはならないとしています。この判例の見解によりますと、本件では、Aが借入債務の2分の1(1500万円)、BCがそれぞれ各4分の1(750万円)を承継します。
しかし、遺産分割実務では被相続人の債務を特定の相続人が負担する合意をすることがあります。
本件でもBCがマンションを取得する代わりに、Z銀行からの借入金を返済することになりました(履行引き受け)。
ただし、この合意はZ銀行の同意がないと、Z銀行に対しては主張できません。
Z銀行は法定相続分通りに、ABCに借入金債務を返還請求できます。
Aの免責的債務引受をさせるには、Z銀行の同意が必要となります。
BCがZ銀行に対して、約定の弁済を続ける限りは、Z銀行がAに対して債務の履行を求めることは事実上ないでしょうが、Aの不安定な法的地位は残ります。そこで、借り換えなどを行うことにより解決方法を探ることが必要です。


Q、被相続人甲は、友人であるZに頼まれ平成17年4月1日、Zが銀行から事業資金を借り入れる際に、極度額3000万円、元本確定期日の定めなしとの約定で連帯保証人となりました。甲は平成21年10月死亡しましたが、平成20年4月1日時点で借入元本は2500万円、A死亡時の借入金元本は2800万円、現在の借入元本は3300万円です。BCが相続人ですがこの連帯保証債務はどうなりますか。

A、(1)連帯保証債務が、遺産分割の対象となるか検討する必要があります。
死亡前に具体化した保証債務は金銭債務に転化しているので、その相続制を肯定できますが、保証人たる地位は承継されず、保証人の死亡後生じた主債務につき相続人は承継しません(判例)
そして、相続人は、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自承継した範囲において、債務者となります。
本件でも、BCは具体的に発生した連帯保証金額を分割承継します。
(2)ではいくら連帯保証債務を負いますか。
貸金等根保証契約に関しては、元本確定期日の定めがない場合には、契約締結の日から3年を経過する日に元本が確定されます。
よって本件では、元本は平成20年4月1日に確定され、Bはその時点の元本2500万円、利息、違約金、損害賠償等を極度額3000万円の範囲で責任を負えば足り、これを超える責任を負うことはありません。
そして、甲の死亡により、BCが法定相続分に従い、この債務を承継し(元本に限れば、1250万円の連帯保証債務を承継します)その限度でZと連帯債務の関係に立つことになります。


Q、被相続人甲は、遺言で長男Aには土地建物(4000万円)と銀行預金(4000万円)を、二男B及び三男Cにはそれぞれ2000万円の郵便貯金を遺贈しました。
しかし、Aの取得する財産の価格がBCの取得する財産の価格の4倍にも及ぶため、ABCの全員は、甲の遺言に反して、遺産分割協議を行い法定相続分に従って遺産分割をすることができますか。


A遺言に従わない遺産分割の効力を検討する必要があります。
共同相続人全員の合意、すなわち遺産分割協議により、受遺者が遺贈の放棄をしたうえで、遺言と異なる分割をすることが可能です。
ただし、遺言執行者がある場合は、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはいけないので、相続人の権利が制限されます。遺言執行者による遺言執行が必要なケースでは、遺言執行者の同意を得ておく必要があります。