寄与分2

寄与分の確定(寄与行為の態様ごとの検討)

寄与行為の態様として、1家業従事型 2金銭等出資型 3療養看護型 4扶養型 5財産管理型がありますので順に説明します。

1. 家業従事型
被相続人の事業に関する労務の提供に該当する類型であり、実業である農業、漁業、の他各種製造業、加工業、小売業、医師、税理士等に従事することによって寄与が認められる場合です。

<要件>
(1)被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること。
ア、特別の貢献
配偶者の寄与行為は、夫婦間には同居・協力・扶助の義務があるから、寄与行為が同義務の範囲内のものと認められ特別の寄与に該当しない場合もありえます。
イ、無償性
相続人から被相続人が世間並の労務報酬に比べ著しく少額である場合には、無償性の要件を充たします。
ウ、継続性
労務の提供が一定以上の期間に及んでいることが必要です。おおむね3~4年を要します。
(2)寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること

(3)被相続人の営む会社への労務提供
(原則)
被相続人の営む会社への労務提供は、あくまで会社に対する貢献であって、「被相続人の事業に関する労務の提供」には当たりません。また、被相続人の財産の維持又は増加と直接的な因果関係も認められず、基本的に寄与分は認められません。
(例外)
実質的には被相続人の「個人企業」に近く、被相続人と経済的にきわめて密接した関係にあり、かつ会社への貢献と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性があり、会社への労務提供に対して賃金などの対価が支払われていない場合には、寄与分が認められる余地があります。

<事例検討―同族会社における寄与分>
被相続人Aは株式会社を設立し、運送業の経営にたずさわっていましたが、被相続人Aの子である相続人Bは無償労働を提供し、相続人Dも無償労働を提供するほか、自己所有の不動産の収入も同会社に営業資金などに充てるなどしていました。また、相続人Cは低い給料で働いていました。
相続人B、C、Dは被相続人に対する寄与分を主張したい。寄与分は認められますか。

<解答>
被相続人B、C、Dの寄与分は認められます。

<評価方法>
通常は、寄与相続人が得られたであろう給付額から、生活費用相当額を控除し、それに寄与期間を乗じることによって算出します。

寄与相続人が通常得られたであろう給付額とは。
寄与相続人が提供した労務について相続開始時における標準的な報酬額を言います。通常は、家業と同種同規模の事業に従事する同年齢の人の年間給与額を基準としており、賃金センサス等を参考にします。

<事例検討―家業従事型の寄与分算定>
給与相当額が月額18万円、生活費控除割合が50%(控除額9万円)、寄与期間が7年間である場合、家業従事型の寄与分はいくらになりますか。

<解答>
18万円×0.5×84か月=756万円となります。

被相続人と寄与相続人が長期に渡って農業に従事した場合、寄与相続人の報酬から算出するよりも、相続財産の形成に貢献したと思われる比率をもって評価したほうがよい場合があります。

<事例検討―農業従事型の寄与分算定>
遺産総額3000万円、寄与相続人の貢献比率30%である場合、寄与分はいくらになりますか。

<解答>
相続財産の総額×寄与相続人が相続財産の形成に貢献した割合で算出します。
3,000万円×0.3=900万円となります。

<寄与分算定時のポイント>
家業従事型の寄与分を算定するために重要な事項はなんですか。

<解答>
(1)提供した労務内容等に対する労働者の平均賃金・報酬
(2)家業の収益性
家業の収益性が低い場合は、その従業員に対する報酬も低くなり、家業に従事する相続人についても事情は同じであります。このような場合、同種の労働者の平均賃金をもって寄与評価額を算定することは相当ではありません。したがって家業の収益性についても、可能な限り明らかにしておく必要があります。
(3)寄与相続人の家計状況
(4)他の相続人の労務提供状況
たとえば、他の相続人らも家業を手伝っていたか否かによって、寄与相続人の貢献比率が異なってきます。

2. 金銭等出資型
(1)被相続人の事業に対して財産上の給付をする場合又は被相続人に対し、財産上の利益を給付する場合です。

具体例
ア、共稼ぎの夫婦の一方(被相続人)が、同人の名義で不動産を購入するに際し、他方が自己の得た収入を提供する場合。
イ、相続人が、被相続人に対し、自己所有の不動産を贈与する場合
ウ、相続人が、被相続人に対し、自己所有の不動産を無償で使用させる場合
エ、相続人が、被相続人に対し、被相続人の家屋の新築、新規事業の開始、借金の返済などのために、金銭を贈与する場合

(2)金銭等出資型の寄与が認められるための要件
ア、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること。
特に財産給付が無償又はこれに近い程度でなされていることが必要です。
イ、寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていること。

(3)被相続人の営む会社への金銭出資
ア、原則
会社に対する貢献であり、被相続人の事業に関する財産上の給付には当たりません。基本的には寄与分の対象になりません。
イ、例外
実質的には被相続人の個人企業に近く、被相続人と経済的に極めて密接した関係にあり、かつ会社への貢献と被相続人の資産の確保との間に関連性があり、会社への財産給付に対して対価が支払われていない場合には、寄与分が認められる余地があります。

<事例検討―同族会社における寄与分>
被相続人Aは甲会社を経営していましたが、その甲会社はAの個人企業に近く、被相続人Aとの経済的に極めて密着していた。相続人Bは甲会社が経営不振のとき、資金援助をたびたび行っていました。相続人Bについて、寄与分が認められますか。

<解答>認められる場合があります。

(4)相続人の経営する会社から被相続人への役員報酬の支払
寄与分の主張は難しいでしょう。役員報酬は会社からの支払で、相続人個人からの援助や贈与とは同視できません。

(5)評価方法
ア、動産または不動産の贈与の場合
→相続開始時の価格×裁量割合
イ、不動産の使用貸借の場合
→相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量割合
ウ、金銭贈与の場合
→贈与金額×貨幣変動率×裁量割合
エ、金銭融資の場合
→利息相当額×裁量割合

※裁量割合とは、出資価格のどの程度を寄与分として認めるかにつき、一定の金額または割合が当然に決まっているのではなく、「裁量割合」として個別に判断されます。

3. 療養看護型
相続人が、病気療養中の被相続人の療養看護に従事したという場合です。被相続人自らの費用で看護人を雇わなければならなかったはずのところを、相続人が看護療養したために、被相続人が看護人の費用の支出を免れた場合に限られます。
(1)療養看護型の寄与が認められるための要件
A、通常期待される程度を超える特別の寄与
ア、療養看護の必要性
被相続人が「療養看護を必要とする病状であったこと」及び「近親者による療養看護を必要としていたこと」の両方が必要です。
イ、特別の貢献
被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献であること。
ウ、無償性
被相続人から寄与行為の対価として金品が渡されたのであれば、無償性の要件を欠きます。
エ、継続性
療養看護が相当期間に及んでいること。1年以上は必要でしょう。
オ、専従性
専業までは必要としません。ただしかなりの負担を要します。
カ、配偶者に対する療養看護
夫婦の協力扶助義務がありますので、特別の寄与と認められるためには、看護期間、内容、要看護状態、配偶者の年齢などに照らし、社会通念上配偶者による通常の看護の程度を超えることが必要です。

B、寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること
実質的看護費用の出費免除が必要です。

(3)家事援助のみの介護
療養看護型の寄与は、疾病(認知症や高齢による動作困難も含む)の存在が前提となっており、健常なる被相続人に対する家事援助は基本的に含まれません。
家事援助を尽くしても療養看護型の寄与としては認められません。
しかし、家事の援助が必要な場合は、家事援助を理由として寄与分が認められる場合があります。

(4)入院中の付添看護
完全看護の病院に入院している場合、身内による看護が必要とはいえないので基本的に寄与分は認められないでしょう。
しかし、医師が近親者の付添看護の必要性を認めた場合、看護の必要性を肯定でき寄与分が認められる可能性があるでしょう。

(5)「まだら認知症」の状態にある者の介護
基本的に療養的看護には当たりません。しかし徘徊見守り行為のような「介護に準ずる負担」が生じており、それが親族として通常期待される程度を超えた特別の貢献と認められる場合、寄与分が認められる場合があります。

(6)被相続人にかわってなされた療養看護
本来ならば被相続人が負担すべきであった療養看護に伴う費用を抑えたことによって、被相続人の財産の維持または増加に貢献したとして寄与分が認められる可能性があります。
(要件)
ア、被相続人が扶養義務を負う者に対する療養看護であること
イ、被療養看護者が要扶養状態にあること
被療養扶養者が自らの療養看護費用を賄えないことが必要です。
ウ、被相続人が扶養可能性状態にあること
被相続人に生活余力があることが必要です。

(7)居住の利益
ア、被相続人から同居してほしいとの要請がある、療養看護のため同居形態をとらざるを得ない場合は、居住の利益は後退します。これに対し、当該相続人に持ち家がなく、当該相続人からの申出により同居が開始された場合居住の利益が大きいと思われます。

(8)療養看護費用の負担
相続人自ら療養看護を行うのではなく、第三者に被相続人の療養看護を依頼し、その費用を負担した場合。
「財産給付型」の寄与ととらえられます。

4. 扶養型
相続人が被相続人を扶養し、被相続人が出費を免れたため財産が維持された場合。相続人が現実に被相続人を引取ったり、扶養料を負担した場合であり「疾病」の存在を前提としません。

(1)扶養型の寄与が認められるための要件
ア、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること。
(扶養の必要性)
身体的にも経済的にも扶養の必要がない被相続人に対し、単に引取って生活の面倒をみたからといって寄与分は認められません。
(特別の貢献)
法律上の扶養義務がないのに扶養をしたとか、扶養義務ある者がその義務の範囲を著しく超えて扶養した場合。

<事例検討―妻の就業による寄与>
被相続人Aは、生前稼働能力を失い、無収入であったため、妻Wが就業して長期に渡り、その収入で夫婦の生計を維持し、相続財産を維持してきました。妻Wによる扶養に寄与分が認められますか。

<解答>
配偶者相互が互いに協力扶助し合うことのできる通常の状態を想定し、その状態で配偶者に期待される協力扶助の程度を基準とし、判断されます。本件では、配偶者に期待される協力扶助の程度を超えると思われ、寄与分が認めらます。

<事例検討―相続人1人による金銭的扶養と寄与>
被相続人Aには子BとCとDがいます。Bが金銭的扶養をした場合、Bの負担した金銭的扶養が特別の寄与にあたると言えるのはどのような場合でしょうか。

<解答>
BCDが同程度の扶養能力がある状態を想定し、Bの支出がその負担額を著しく超えることが必要であり、かつそれで足ります。Bの支出した金額を子の数で割った額を本来の子の扶養義務とし、これを超える額を寄与分と認めることになります。

イ、寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていること。

(2)評価方法
被相続人の生活を維持するために相続人が実際に負担した金額(飲食費・被服費・医療費・居住関係費・公租公課など)をもとめて、それに裁量割合を乗じて計算します。

5. 財産管理型

たとえば、被相続人の賃貸不動産を管理することで管理費用の支出を免れた場合、被相続人の土地の売却に際し、同土地上の家屋の賃借人との立退き交渉、家屋の取壊し及び滅失登記手続、土地の売買契約締結等の努力したことで土地の売却価格を増加させた場合などです。

(1)要件
被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること
ア、財産管理の必要性
イ、特別の貢献
被相続人宅の庭先に生える雑草を季節ごとに刈り取ったという程度では寄与分は認められません。
ウ、無償性
無報酬または無償に近い状態でなされていることが必要です。
エ、継続性
2~3か月だけ管理を行ったという程度では寄与分の対象になりません。
財産管理が相当期間に及んでいることが必要です。

(2)評価方法
ア、財産管理行為そのものが寄与行為である場合(不動産の賃貸管理・占有者の廃除・売買契約締結への関与など)
当該行為を第三者に委託した際の報酬額を基準金額とし、他方財産管理に要した金銭の出資が寄与行為である場合(建物の火災保険料・修繕費・公租公課など)は相続人が現実に負担した額を基準として、それに裁量割合を乗じて計算します。

イ、財産管理を第三者に委託した場合の報酬額
建物修理については、リフォーム業者の標準工事費用・庭木や雑草の手入れについてはシルバー人材センター等の基本料金・賃貸不動産の総合管理については、不動産管理会社の請負料金など。
しかし、いずれも専門家による料金であり、そのまま素人である身内への報酬額として認めることは相当でないでしょう。