ケース別遺産分割Q&A(2)

Q、被相続人甲(母親)は、夫に先立たれ、子どもA(長女)、B(長男)がいましたが死亡しました。甲は生前、脳こうそくの後遺症のため、常に介護を必要としており、5年間に渡り、Aが甲と同居し、介護に努めました。
甲には相続財産として、1,000万円の預金があります。AとBは遺産分割協議をすることになりました。
私(A)には寄与分があると思うのですが、どのような問題点がありますか。また、どう計算しますか。


A、(1)寄与分額については、遺産分割協議で話し合われます。そこで、何が寄与行為で、いくらの額になるのか決めます。
(2)寄与行為が認められるには、寄与行為により被相続人の財産が維持・増加したことと、それが特別な寄与であることが必要です。夫婦の相互扶助義務や親子の扶養義務の通常の範囲であるなら原則として寄与行為になりません。通常期待される程度を超える貢献が必要です。本件のような療養看護型の場合は、被相続人の療養看護を要する程度と療養の期間が問題となります。
本件では、甲の病状や期間(目安は1年以上)にかんがみ、親子の扶養義務の通常の助け合いの程度を越えた程度と思われます。また、現実に介護人を雇うなどしないで、財産の減少が免れていますので、寄与行為にあたると言えるでしょう。
(3)もっとも、Aが甲から、相当の報酬(対価)をもらっている場合(謝意として、贈与や遺贈を受けている場合も)には、それによって決済済みと言え寄与とはなりません。本件ではこれは特にありません。
(4)寄与分の計算は、本件のような療養看護型の場合は、付添婦の日当額×療養看護日数×裁量割合(被相続人の程度、身分関係、プロでないこと、専従した程度、寄与分者の失った給与などの裁量割合を乗じます)
(5)本件で、仮に付添婦の平均時給1,000円とし、看護日数1,825日のうち看護平均時間1日で2時間、裁量割合0.7とすると、寄与分は2,555,000万円です。(寄与分は通常は、遺産の2~3割というのが実際は多い)
(6)1,000万円から、255万5千円を引きます。744万5千円を、2(AB二名なので)で割ります。372万2千5百円となり、これに255万5千円をプラスすると、627万7500円となり、これをAが取得します。


Q、被相続人甲(父親)は、妻Aと長男B長女Cがいました。生前、長男が結婚する際に自宅購入資金として、Bに1,000万円贈与しました。甲の相続財産は預貯金の3,000万です。
私(長女C)は、遺産分割協議に臨む際に、兄のBの特別受益を主張するつもりですが、どう計算したらいいでしょうか。


A、(1)特別受益とは、遺贈(遺言による贈与)・婚姻や養子縁組のための生前贈与(支度金や持参金です。結納や挙式費用は該当しません)・生計の資本としての生前贈与を言います。公平の観点から、これを持ち戻し再計算します。
家を建てるときにお金をもらうのは、生計の資本としての生前贈与にあたります。よって、本件1,000万円は特別受益となります。
(2)1,000万円を相続時の遺産(3,000万円)に加えて(持ち戻しと言います)、みなし相続財産とします。4,000万円を各人の法定相続分を乗じます。実際の取得額は、妻Aは2,000万円、長女Cは1,000万円、長男Bはゼロ(法定相続分1,000万引く特別受益額1,000万円)です。
(3)被相続人甲のもち戻しの免除を確認する。持ち戻し免除とは、特定の相続人に対する生前の贈与は、相続とは別枠で利益を与える旨の意思を言います。
遺言でもよいですし、口頭でもよいです。明示の意思表示のみならず黙示の意思表示でもよいです。本件では特に甲の持ち戻し免除の意思表示はありません。
仮に持ち戻しの免除の意思表示があれば、Bに対する生前の贈与額はみなし相続財産にプラスして計算せず、またBから1,000万円引くこともなく、Bの取得額は、750万円となります。


Q、被相続人甲(父親)は、妻Aと長男B長女Cがいました。生前、長男が会社を辞めて、独立開業資金として、Bに800万円贈与しました。甲の相続財産は預貯金の3,000万です。
私(長女C)は、遺産分割協議に臨む際に、兄のBの特別受益を主張するつもりですが、どう計算したらいいでしょうか(相続分と合算して法定相続分通りに分けるケース)。


A、計算上、この800万円を相続開始時の遺産に戻して、仮に生前贈与がなかった遺産額(みなし相続財産)を出します。3000万+800万=3800万円。これを各人の法定相続分に従って分けると、A1900万円、C950万円、B150万円(950万円-800万円)。Bは生前贈与額と合わせれば、長女Cと同じ額を受取っていることになります。


Q、被相続人甲(父親)は、妻Aと長男B長女Cがいました。生前、甲は長女Cの結婚持参金として1,800万円贈与しました。甲の相続財産は預貯金の3,000万です。
私(長男B)は、遺産分割協議に臨む際に、長女Cの特別受益を主張するつもりですが、どう計算したらいいでしょうか(贈与額が大きく受益者の相続分額がマイナスになるケース)。


A、3,000万円(相続時の遺産額)+1,800万円(特別受益の額を相続時の遺産額にプラスする)=4,800万円(みなし相続財産)。これを法定相続分に従って分けます。Aは2400万円、Bは1200万円、長女Cは-600万円(1200万円-1800万円)。Cは、600万円もらいすぎていますが、民法の規定により、超過分は返還しなくてよいです。長女Cについては、今回の相続で受け取り分はゼロです。
では問題は、足りない600万円をAとBでどう負担するかです。
Aについては、計算上の相続分額の2,400万円を分子にして、AB2人の相続分額3,600万円(2400万+1200万)を分母にして、割ります。すると3分の2。
Bについては、計算上の相続分額の1200万円を分子にして、AB2人の相続分額3,600万円(2400万+1200万)を分母にして、割ります。すると、3分の1。足りない600万円を、A:B=2:1で分けます。Aは400万円、Bは200万円を計算上の受取額から差し引かれます。
結局、Aは、2,000万円、Bは1,000万円を受けとります。


Q、被相続人甲(父親)は、妻Aと長男B長女Cがいました。長女は5年前新居建築用地として、甲から4,000万円相当の土地を贈与されています。相続時に残っていた遺産額は預金の3,000万円だけです。しかし、甲は持ち戻しの免除をしています。私は、遺産分割協議に臨む際に、長女Cへの生前贈与の考慮を主張しようと思っていますが、どう計算したらよいでしょうか(贈与額が大きく他の相続人の遺留分まで侵害するケース)。

A、本件の場合は、遺留分の計算をする必要があります。被相続人は自分の財産を処分するにあたって、基本的には好き勝手にしていいのですが、相続にあたって割を食う側の相続人にも配慮されています。これが遺留分です。特定の相続人に対してなされた生前贈与の額が大きすぎて、ほかの相続人の遺留分まで侵害している場合には、侵害された相続人は侵害部分の取戻しができます(遺留分減殺請求)。今回は、妻と子が相続人なので、全体の遺留分は2分の1です。
これに法定相続分を掛けると、妻A4分の1、長男B8分の1が各人の具体的遺留分となります。
(1)遺留分の計算の元となる被相続人の財産額
3000万円+4000万円(長女への生前贈与額)=7000万円
(2)各人の遺留分額
A:7000万円×4分の1=1750万円
B:7000万円×8分の1=875万円
(3)各人の相続分額(持ち戻しの免除)
Cへの生前贈与額4000万円は持ち戻ししないので、Aは1500万円(3000万×2分の1)、Bは750万円(3000万円×4分の1)が、相続分となります。
(4)遺留分侵害額
遺留分侵害額は、各人の最終の相続分額から遺留分額を引いて、マイナスになった額です。
Aは、-250万円(1500万円-1750万円)。Bは、-125万円(750万円-875万円)
AとBは、それぞれ長女Cに対して上記侵害額だけ自分に戻せと請求できます。

減殺請求がなされれば、対象は土地ですから、共有にするか、あるいは売却してお金に変えて戻すかですが、物件の利用に支障をきたしたり、価値を減じたり実際的ではないでしょう。そこで、贈与を受けたCが別にお金を用立てて支払うか、今回の相続におけるCの相続分額(750万円)を割り振る遺産分割によって処理することになるでしょう。


Q、では、生前贈与が相続人ではなく、相続人以外の第三者Zになされている場合に注意すべき点はありますか。

A、相続人に対する生前贈与とは異なり、期間の限定があります。被相続人が無く死亡し、相続が開始したときから遡って1年前までの期間になされた贈与しか対象になりません。これより前の生前贈与は、相続人以外へのものなら減殺請求にかけられません。
もっとも、当事者が遺留分を侵害すると知った上でした贈与は、1年より前であっても計算に含め、減殺請求にかけられます。


Q、甲(被相続人)は、預金700万円、土地建物(1300万円)を残し、死亡した。相続人は、妻Aと長男B長女Cです。Aは、甲と同居していた自宅にそのまま居住したいと思っています。どう遺産分割したらよいでしょうか。

A、(1)代償分割という方法を取ります。
各人の法定相続分を計算すると、Aは1000万円(2分の1)、Bは500万円(4分の1)、Cは500万円(4分の1)です。残された妻Aはこの建物に住み続ける選択をしたので、300万円ほど多く相続することになります。
この場合、Aは土地建物を受取らないBCにAの不足分の300万円(代償金)を渡すことで解決できます。また、Aに金銭がない場合には、ABCで土地建物を共有するという方法も考えられます。ただし共有にすると、売却しても共有者全員の同意がない限り全体の売却はできず、各人の権利の持分しか売却できませんので注意が必要です。
(2)また次のように考えることもできます。
この度の相続では、妻A(BCの親)が法定相続分を大きく超える受取額になるとしても、子どもたちは良しとします。残されたAに土地建物を全部相続させます。そして、BCはAが亡くなった時点の相続で、改めて土地建物について公平な分配を考える方法です。
(3)さらに次のようにすることもできます。
子どもの一人(たとえば長男B)が不動産を全部受取、残された親と同居します。そして、ほかの子ども(長女C)には、他の遺産や自分(B)の財産を渡す方法です。


Q、被相続人甲(父親)は、静岡市に自宅の土地建物を残して死亡しましたが、共同相続人の長男A及び長女Cは、いずれも千葉市に自宅を構えていたため、遺産の土地建物を利用する必要がありませんでした。
この場合どのように遺産分割すればよいでしょうか。


A、換価分割をすることができます。換価分割とは、共同相続人全員が土地建物等を第三者に売却し、その売却代金から諸費用を差引いた残額を分配する遺産分割の方法です。
遺産分割協議において、当該遺産を相続人全員の共有としたうえで、相続人全員の合意のもと各自の持分を第三者に売却し、各持分の割合で売却代金を取得します。
では、換価分割にあたりどのような事項を取り決める必要がありますか。
売却代金の分配方法(取得割合)・買主や売却代金などの具体的条件などが決まっていれば、それらの条件を条項に記載します。


Q、被相続人甲が死亡し、銀行預金1000万円が相続財産で、相続人子ABCが分割協議しました。しかし、その分割協議後に新たな遺産である土地(時価1000万円)が発覚しました。遺産の一部を見落としてなされた遺産分割協議は有効でしょうか。

A、この場合の遺産分割は、遺産の一部を脱漏した遺産分割であり、結果として一部分割となり、有効です。
そして、新たに判明した財産について、新たな遺産分割協議をすれば足ります。
(遺産の一部を脱漏した遺産分割も原則として有効ですが、最初の分割時に未判明の財産の存在が相続人らに判明していたのであれば、当初のような分割をしなかったと考えられる場合には、最初の分割は錯誤無効となり、全財産を対象として、新たな遺産分割を行うことになります。)


Q、被相続人甲が死亡し、遺産として土地(2000万円)と自動車(500万円)が残されました、共同相続人長女Aと次女Bは遺産分割協議で土地は長女が高級自動車は次女が取得することになりました。ところが、その後第三者Zが生前甲から自動車を譲受たと主張し、自動車の登録名義の移転を求めてきました。事実関係を調べたところ、売買契約書が出てきました。どうしたらよいでしょうか。

A、(1)遺産分割協議の錯誤無効の主張が考えられますが、重大な事項についての錯誤である必要があります。自動車が遺産の主要部分とまではいえなので、錯誤無効は難しいのではないかと思います。
(2)次に共同相続人の担保責任について検討する必要があります。
遺産分割協議で瑕疵ある物を取得した共同相続人は、その瑕疵が遺産分割をした目的を達することができない程度に大きいものである場合は、遺産分割を解除することができると考えられます。
瑕疵がそれほど大きくない場合は、損害賠償の請求のみをすることができます。


Q、被相続人甲は、土地(2000万円)と預金(1000万円)と自動車(300万円)を残して死亡した。長男Aと次男Bが共同相続人である。遺産分割協議において、寝たきりの状態で介護が必要な甲の母乙の世話をAがすることを条件にAが土地と預金を取得し、Bが自動車を取得することとなりました。しかしその後、Aが病気にかかり乙を介護できなくなりました。

A、(1)相続人の1人がほかの相続人に対して、債務を負担することを内容とする遺産分割協議をしたところ、その債務が履行されなかった場合、ほかの相続人が債務不履行を理由として、遺産分割の解除をすることができるでしょうか。
裁判例は解除を否定しています。本件でもBは、Aが債務を履行できないことを理由に債務不履行解除をすることはできません。
(2)しかし、相続人全員の合意により、一度成立した遺産分割協議を合意により解除し、改めて遺産分割協議を成立させることはできます。