遺産の範囲2

(12)社員権
社員権とは、社団法人の構成員(社員)が法人に対してもつ権利。
株主権が代表的。共益権(ex議決権)と自益権(ex剰余金の配当請求権)があります。
社員権が相続の対象となるかならないか。なるとした場合、社員権が当然分割されるか、遺産分割審判(協議)の対象となるのかが問題となります。

①株式会社の場合
株式は相続の対象となります。
(理由):株式会社という団体の性質→社員相互間の人的関係が希薄で社員権の財産性が高いので。

また、株式は不可分で、遺産分割がなされるまでは共同相続人が株式を準共有し、審判の対象となります(通説判例)。
(理由):単純な金銭債権(ex預金債権)でないからです。共益権と自益権を含む社員の会社に対する法的地位と解されるので。

②有限会社の場合
現在は特例有限会社。旧有限会社は株式会社として存在。
物的会社としてその性質上株式会社と同様に解されます→出資持分は審判の対象となります。

裁判例→遺産分割がなされるまでは、その口数にかかわらず、右持分全部について相続分に応じた準共有関係が生じます。(出資持分を可分のものと解し、相続によって当然に分割されません)。

③持分会社(合名・合資・合同会社)
これらの会社の社員たる地位を「持分」といいます。
持分会社では、社員の地位は死亡が退社事由となっています(会社法607条1項3号)
理由:人的関係が強く社員の個性が重視されるので。
→社員権は相続の対象でありません。

相続人は、死亡による退社を原因とする持分払戻請求権を有します。相続人は持分払戻請求権を相続分に応じて共有しますが、遺産分割前に当然に分割されるわけではありません(審判例)。

(13)協同組合の出資金
組合員の地位は相続しません。理由:組合員の死亡は脱退事由なので(民法679条)。
しかし、出資金の払戻請求権が法律上規定されています(民法681条)。持分払戻請求権を相続するが、出資金の持分払戻請求権は、単なる金銭債権と評価されるから、預貯金と同様、遺産分割前において、当然分割されます。

(14)社債
①相続対象性
相続の対象になる。
理由:社債契約は、消費貸借契約に類似する無名契約なので。 ②遺産分割対象性があります。
相続人が数人ある場合、共同相続人は、社債を準共有すると解するのが相当であり、社債は当然に分割されるものではありません。
理由:社債券が発行される場合もあること、社債権は有価証券であり株式と同様の性質を有すること、会社は社債原簿を作成する必要のあること、社債原簿への記載変更等の請求は相続人が共同でしなければならないこと(会社法691条2項)からです。

(15)国債
①相続対象性
相続の対象になります。
理由:国債は、購入者と国との間の消費貸借類似の契約であり、国に対する請求権であるから。

②遺産分割の対象性
相続人が数人ある場合、共同相続人は、国債を準共有すると解され、国債は当然分割されるものではありません。
理由:国債は購入単位が定められていること、国債証券が発行される場合もあること、国債登録簿が作成されることからです。

③郵貯銀行及び郵便局会社の実務
原則として、国債の途中換金の請求はできません。国債には償還期限(3年・5年・10年など)があるため。しかし国債の所有者が死亡した場合には、特例により満期前でも相続人が途中換金することが可能です。
※意義・国債の商品性

(16)投資信託
①相続対象性
相続の対象になります。
②遺産分割対象性
ア、投資信託は遺産分割の対象財産となる。分割債権として取り扱うか否かについて見解の相違があります。
 (ア)不可分説―単独による行使ができません。
 (イ)可分説―単独による行使ができます。
イ、MMF・MRFについての裁判例―単独で行使ができるとする裁判例。
共同行使しなければならないという下級審判例もあります。最高裁判例はありません。
ウ、MMF・MRF以外の投資信託の取り扱い
③実務
※意義・運営の仕組み・特質・分類

(17)貸付信託
①遺産分割の対象財産性
分割債権として単独行使できません。
理由:預け入れ単位が1万円以上1万円単位(整数倍)であること、信託期間内に中途解約ができないことからです。
②信託銀行での取扱
現在、貸付信託の新規取り扱いを停止しています。

(18)電話加入権
電話加入権は相続の対象になります。
分割債権として単独行使できません。
近時は電話加入権の取引相場が下落しているため、財産的価値は乏しい。

(19)ゴルフ会員権
①相続・審判の対象になるもの。
預託会員制のうち、会則が相続性を肯定している場合、会則に相続について定めがない場合→相続の対象となり、審判対象になります。
株主会員制→相続の対象となり、審判の対象となります。

ただし譲渡にはゴルフ場会社(理事会)の承認が必要であるから、事前に承認が得られるかどうかを確認すべきです。

②相続の対象にならないもの。
預託会員制のうち会則が相続性を否定している場合及び社団会員制においては、ゴルフ会員権は相続の対象にはなりません。
相続人は預託金返還請求権や滞納年会費支払義務などについて個々の債権債務を可分債権・可分債務として承継することになります。

(20)知的財産権

①著作権は、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属する著作物に対する排他的、独占的権利。
財産権として相続の対象になります。相続するには特別の手続きは不要ですが、遺産分割協議(審判)が必要となります。
著作者の有する権利は、著作権と著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)があり著作者人格権は、一身専属権であり(著作権法59条)原則として著作者が死亡すれば消滅します。つまり相続の対象とはなりません。

相続人がいない場合はどうか(漫画家やなせたかしさんのケース)
著作者が死亡したのち50年保護されるが、法定相続人も遺贈の受取人もおらず、財産分与を申立てる特別受益者もいなければ、国庫に帰属せず、著作権は消滅します。

②狭義の工業所有権
特許権、実用新案権、意匠権、商標権は、譲渡性があり、相続を肯定することを前提とします。
規程もあるので、相続の対象であり、審判の対象になります。

③商号権・不正競争防止法上の権利
商号権は経済的価値を有するものであり、財産権として譲渡できるものであるから(商法15条)、当該営業と相まって相続の対象及び審判(協議)の対象となります。
不正競争防止法上認められる商品等の表示・取引上の表示・営業上の信用などについて発生する権利→譲渡性があり、審判(協議)の対象となります。

④その他
回路配置利用券・種苗法上の育成者権についても譲渡性があり、審判の対象となります。
民法上の氏名権・肖像権・トレードシークレット(営業秘密)についても、顧客吸引力を有していて経済的利益価値を有することから、財産権として相続の対象となり、審判の対象(分割協議)となります。

(21)動産(貴金属・着物・家財道具等)
①動産の特定→動産も遺産分割の対象となるが、特定が必要となります。
②特定の方法→形状、保管者など個性により特定します。
 複数の動産類を包括して保管場所等により特定します。
③問題点→動産を保管している人の協力が必要。
④形見分け

(22)共同相続人が取得する遺産の共有持分→遺産の共有持分権は遺産分割の対象→裁判例

(23)営業権
①意義→判例
②営業権の権利性→~無形の財産的価値を有する事実関係である(判例)
③遺産分割における取扱
営業権の権利性は否定されます。よって営業権を遺産分割の対象として特定の相続人に取得させることはできません。
当該相続人が営業用財産と一括して相続し、それとともに事実関係である営業権も事実上承継します。

(24)農地
農地は土地所有権として、遺産分割の対象となります。
※農地法3条の許可
相続→不要/遺産分割→不要/包括遺贈(協議)→不要/特定遺贈→必要/遺留分減殺→不要


2 遺産分割の対象から除外される財産

(1)金銭債務(相続開始前の債務
相続により当然に各相続人に法定相続分で承継されます。
実務で→相続人の1人が遺産を単独で取得する代わりに、債務も全額負担する内容の協議が成立する場合があります。

※免責的債務引受→債権者(銀行)の承諾が必要となります。他の相続人は債務から解放されます。
※重畳的債務引受
※履行引受→債務者と履行引受者との契約。遺産を全部取得した相続人が債務を支払うと他の相続人に履行を約束すします。しかし債権者(銀行等)を拘束せず、債権者は従来の債務者に請求できることがポイント。

2)葬式費用、香典、祭祀財産、遺骨、はいずれも遺産とは別個の性質です。


3 遺産の範囲を確定するための調査方法

(1)調査嘱託
調停委員会は、必要な調査を官庁など、又は銀行・信託会社・雇主等に対し預金・収入その他必要な事項に関し必要な報告を求めることができます(家審規137条.8条)
①預貯金に関する調査嘱託
ア 嘱託先の特定
イ いわゆる遺産探しのための調査嘱託→弁護士会照会(弁護士法23条の2)
ウ 裁判所による調査嘱託→原則として調査嘱託をしません。
エ 被相続人名義の預貯金口座
オ 費用
②税務署に対する調査嘱託→守秘義務を理由に拒否される実情
③家事審判手続における文書提出命令の可能性
現行法では、強制力ないし制裁の存在を前提とした証拠調べは、明文なき限りできません。

(2)資料の開示
①金融機関が特定できているが、資産内容を裏付ける取引明細書の開示を相手方が拒否している場合→戸籍謄本等を示して相続人であることを疎明すれば資料の開示に応ずる場合もあります。
②金融機関の預金契約に基づく被相続人名義の預金口座の取引経過を開示すべき義務→あり
③金融機関と顧客との取引履歴が記載された明細表の開示
ア 明細表が金融機関の職業の秘密を記載した文書に当たるか。
イ いえない。金融機関は、本件申立に対し明細書の提出を拒否することはできないので。