自賠責保険の解説

1、自賠責保険とは
自動車による人身事故の被害者の方を救済するため、原則として原付を含むすべての自動車につけることが自動車損害賠償保障法という法律により義務付けられている保険(強制保険)です。

この保険でお支払いできるのは人身事故による損害に限られ、物の損害(物損)は対象となりません。また、多くの請求に対し迅速かつ公平に手続きを行う必要があるため、定型、定額化された支払基準が定められており、支払いできる保険金にも限度額があります。
支払限度額は被害者1名ごとに定められています。1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者1名あたりの支払限度額は減らされることはありません。2台以上の自動車が加害者の場合(共同不法行為)、被害者はそれぞれの加害者が加入している自賠責保険会社に直接請求できます。自賠責保険の支払限度額は加害車両の台数分だけ増加します。

2、請求できる期間(時効)

事故日によって請求できる期間が異なります。
平成22年4月1日以降に発生した事故
○被害者請求:事故日の翌日から起算して3年以内(ただし、後遺障害については症状固定日の翌日から起算して、また死亡された場合は死亡日の翌日から起算して3年以内となります。)
○加害者請求:被害者の方や病院に損害賠償金を支払った日の翌日から起算して3年以内

3、ご請求の方法

<(1)被害者の直接請求>
被害者の方は、加害者が加入している自賠責保険会社に直接、損害額を請求できます。なお、治療の途中で損害賠償確定前であっても損害賠償金のご請求ができます。

本請求
加害者の方から損害が受け取れないような場合(加害者と過失割合で争っていたり、加害者が責任を認めていない、交渉が難航しているようなケースなどで)、加害者と示談せずに被害者の方が直接ご請求いただけます。
請求に際し、加害者と示談が成立している必要はありませんが、既に加害者の方から損害賠償を受けている場合は、その分を差引いて支払われます。

仮渡金
加害者の方から損害賠償金を受領していない場合で、当座の費用にお困りのときに、ご請求いただけます。ご提出した医師の診断書から判断します。
その程度により290万(死亡の場合)40万(傷害)20万(傷害)5万(傷害)となっています。
なお、支払われた仮渡金は、後日確定した損害賠償額から差し引かれます。

<(2)加害者請求>
加害者の方が被害者の方や病院に損害賠償金をお支払いした後、保険金を自賠責保険会社に請求できます。治療費の病院への立替払い請求など、加害者の方が実際にお支払いしていない場合、賠償金の請求はできません。
請求に際し、必ずしも示談が成立している必要はありませんが、被害者の方や、病院などに支払ったことを証明する資料(加害者あての領収書)が必要です。
※「領収書」には、加害者の名前、金額、名目、支払年月日を明示し、受取人の署名、捺印が必要です。


4、請求できる損害の範囲と支払い基準

<傷害による損害>
傷害事故の場合では、積極損害(治療費に関する費用等)、休業損害及び慰謝料等の合計額を支払限度額の範囲で支払います。なお物損については支払の対象となりませんが、被害者が負傷した際、メガネ等身体の機能を補う物が破損した場合には、支払の対象となります。

支払限度額 120万(被害者1名につき)

支払内容

   <内容>  <支払基準>
 治療費  診察料・投薬量・手術料・処置料・入院費・柔道整復等の費用 必要かつ妥当な実費  必要かつ妥当な実費
 看護料  近親者等の付添(医師が看護の必要を認めた場合又は被害者が12歳以下の場合  原則として入院1日     4,100円
通院付添1日につき      2050円
 諸雑費  入院のための氷代・布団使用料・栄養費・通信費など  原則として入院1日     1,100円
 通院交通費  通院・入退院に要した交通費※1  必要かつ妥当な実費
 その他の費用  義肢・メガネ・コンタクトレンズ・補聴器代等  要かつ妥当な実費
メガネ・コンタクト代は5万円が限度
  文書料  交通事故証明書・印鑑証明書・住民票等  必要かつ妥当な実費
 休業損失  傷害のため発生した休業による損害
お勤めの方で有給休暇を使用してお休みになった場合や、家事従事者として家族のために家事をおこなっている方についても請求できます。
 1日につき5,700円※2
これ以上の収入源がある場合実費(19,000円が限度)
 慰謝料 精神的・肉体的な苦痛に対する補償 1日につき4,200円

※1バス・電車等の公共交通機関を利用した方、タクシーを利用した方、自家用者を利用した方も請求できます。タクシーの場合領収書が必要です。
※2例えば、家事従業者の方でパート・アルバイト勤務されている場合には、パート・アルバイトとしての損害を確認し、その内容に基づき自賠責保険支払基準に則って計算した結果に従って、パート等の休業損害か家事従業者としての休業損害かいずれか有利な方で認定することになります。

<後遺障害による損害>
後遺障害とは、交通事故によって回復が困難と見込まれる障害が身体に残ったため、労働能力や日常生活に支障があると認められる場合をいいます。

後遺障害による損害については、医師の後遺障害診断書・検査資料等に基づき後遺障害として認定された場合に、障害の程度に応じた等級によって逸失利益及び慰謝料等の合計額を支払限度の範囲で支払います。

損害

逸失利益
①後遺障害により労働能力が減少したために将来発生するであろう収入の減少
②収入額、各等級に応じた労働能力の喪失率、就労可能年数などから算出します。

慰謝料
①精神的・肉体的な苦痛に対する補償

初期費用等
①車椅子や介護ベッド購入等に要した費用

支払限度額
①「神経系統の機能又は精神」「胸腹部臓器」のいずれかに著しい障害を残し、介護を要する傷害
  常時介護を要する場合(第1級) 4,000万円
  随時介護を要する場合(第2級) 3,000万円
②上記①以外の後遺障害―(第1級)3,000万円~(第14級)75万

 1級  2級  3級  4級
 3,000万  2,590万  2,219万  1,889万
 5級  6級  7級  8級
 1,574万  1,296万  1,051万  819万
 9級  10級  11級  12級
 616万  461万  331万  224万
 13級  14級    
 139万  75万    
<死亡による損害>
死亡事故の場合は、葬儀費、逸失利益、被害者本人及び遺族の慰謝料の合計額を支払限度額の範囲で支払います。なお、死亡に至るまでの傷害により生じた損害については、傷害の場合を参照してください。

支払限度額  3,000万円(被害者1名につき)
 損害項目  内容  支払基準
 葬儀費  通夜・祭壇・火葬・埋葬
墓石などに要する費用
墓地、香典返しは含まない。
 60万円(この額を超える立証があれば100万円の範囲で必要かつ妥当な実費)
 逸失利益  被害者が死亡しなければ将来得ることができた収入から生活費を控除したもの  収入及び就労可能期間・被扶養者の有無等を考慮の上計算します。
 慰謝料   被害者本人の慰謝料  350万円
 遺族の慰謝料
(注)請求権者(被害者の父母・配偶者・子)の人数により金額が異なります。
請求者が1名の場合550万円
   2名の場合 650万円
   3名の場合 750万円
(被害者に被扶養者がある場合、上記遺族慰謝料に200万円が加算) 
◇被害者が死亡された場合
(1)請求権者は、相続人と遺族慰謝料請求権者になります。
相続人(民法886条~890条)
①配偶者と子(子が既に死亡しているときは孫)
②子・孫がいないときは、配偶者と父母(父母が既に死亡しているときは祖父母)
③子・孫・父母・祖父母がいないときは、配偶者と兄弟姉妹

慰謝料請求権者(民法711条)
①被害者の父母・配偶者・子

(2)被害者請求の場合は、原則として上記請求権者のうち1名を代表者として選び、その方から請求を行います。

5、保険金が減額される場合

次のような場合には保険金が減額されます。
①被害者に重大な過失があった場合。

 減額適用上の
被害者の過失割合 
 減額割合
後遺障害又は死亡に係るもの   傷害に係るもの
 7割未満   減額なし  減額なし
 7割以上8割未満  2割減額  2割減額  
 8割以上9割未満  3割減額
 9割以上10割未満  5割減額
※被害者の過失が7割(未満)でも、過失相殺されず全額支払われるので有利。
 過失割合で加害者ともめているときは自賠責請求がスムーズとなります。

※任意保険にはこの取り扱いは適用されません。
 被害者の方に過失があれば、過失割合分が損害額から差し引かれます。

②受傷と死亡、又は受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合損害額から5割が減額されます。なお、損害額が支払い限度額を超える場合には、支払い限度額から減額されます。

6、損害調査について

1、自賠責保険では、公平・適正な支払を行うために、損害料率算質機構(以下、損保料率機構)の自賠責損害調査事務所に損害調査を依頼しています。
損保料率機構は、「損害保険料率算出団体に関する法律」に基づき発足した法人で、事業の一環として自賠責保険の損害調査及び政府の保障事業の損害調査を行っています。

保険会社は、自賠責損害調査事務所の調査結果をもとに支払金額を決定し、支払います。
なお、調査事務所における調査の過程で、事故当事者の方へのご照会や追加書類の提出依頼・病院への照会・事故現場の確認・勤務先への照会等を行うことがあります。また、支払まである程度日数を要します。

2、高度な知識を必要とする事案等(特定事案・異議申立事案以外)については、地区本部又は本部で、各領域の専門家に相談の上、協議、検討を重ねて判断します。

3、特に慎重かつ客観的な判断を必要とする事案は「特定事案」として自賠責保険有無責等審査会・自賠責保険後遺障害審査会で審査が行われます。異議申立事案も。

4、保険会社への異議申立
自賠責保険の支払い内容に納得できない場合には、損害保険会社等に「異議申立」をおこなうことができます。

7、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構について
(財)自賠責・共済紛争処理機構が、自賠責保険の支払について、ご納得いただけない場合のために、構成中立で専門的な知見を有する裁判外紛争処理機関として設置されています。
この機関は国土交通大臣及び内閣総理大臣の監督のもと、自賠責保険の支払について所要の調査を行い、紛争の当事者に対して調停を行います。

対象事案→自賠責保険会社の判断結果に関する紛争を対象とします。

調停の手続き
構成中立で、専門的な知識を有する弁護士・医師・学識経験者からなる紛争処理委員が、紛争の種類・難易度に応じて3名以上の合議制で、審査を行います。

保険会社による調停結果の取り扱い
自賠責保険会社では、紛争処理機構の調停結果を遵守します。
ただし、裁判所で、判決、和解、又は調停などによる解決が行われた場合はこの限りではありません。

8、交通事故治療と社会保険の関係

交通事故の治療についても、業務中や通勤途中であれば労災保険、それ以外の場合でも健康保険(国民保険)が利用できます。その場合は、健康保険組合等に第三者行為の届け出が必要です。また、労災保険や健康保険からの給付金は政府や健康保険組合から、自賠責保険会社又は加害者に請求されます。

なお、治療費についても過失相殺の対象となるため、被害者の方に重大な過失がある場合、その過失分は被害者の方が自己負担しなければなりませんが、社会保険を利用すれば治療費の自己負担の軽減につながります。

9保険金が支払えない場合

自賠責保険は、自動車の運行によって他人を死傷させたために、保有者又は運転者が法律上損害賠償責任を負った場合の人身損害について損害賠償金を支払う制度です。そのため、次のような場合には保険金が支払えません。

1、加害者に責任がない場合

加害者が次の3つの要件をすべて立証できる場合には加害者には責任がなく、自賠責保険は支払えません。

①自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと。
②被害者の方又は運転者以外の第三者に故意または過失があったこと。
③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと。

2、電柱に自ら衝突したような、いわゆる自損事故で死傷した場合。

3、自動車の「運行」によって死傷したものでない場合。

(例)駐車場に駐車してある自動車に人がぶつかって死傷した場合。

4、保険契約者又は被保険者の方の悪意によって損害が生じた場合。

ただし、被害者は自賠責保険へ直接請求できます。

5、被害者の方が、自賠法にいう「他人」に該当しない場合。

(例)自動車の所有者と友人が交代運転を繰り返している途中、所有者運転の自損事故により友人が死傷した場合、その友人は「他人」とは言えないため、損害賠償金はおりません。

10、ひき逃げや無保険車・盗難車の事故に遭われた場合

加害者側から賠償を受けられない被害者のために政府の保障事業制度があります。
平成19年4月1日以降に発生した事故については、自賠責保険と同じく、被害者の方に重大な過失があった場合のみ減額をおこないます。